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奥沢文庫

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2017年 04月 01日

さよならソニービル

ソニービルは満身創痍だった。
名建築の最後はきまって満身創痍、とりわけ商業用途は痛々しい。

「花びら構造」の床は規則正しく90センチ毎に上がっている筈だったが、

何故か、四区画の内、一区画の床が上階まで一様に嵩上げされ、リズムが

崩れていた。そして、窓の内側には壁が巡り、「外の景色」が遮断されて

いた。更には元々の天井が改変され、フラットで退屈な姿に変わっていた。

つまり、ビルの内側にもう一皮、新しい仕上が作られ、内部空間はひと回

シュリンクした。(1


そのようなところ、床と階段には人工芝が張られ、途切れることなく上階

まで連続している。中央の柱の足元にはフェイクのアイビーが繁茂する。

壁には未来都市の風景イラストが天井まで描かれ、各フロアに往年のソニー

プロダクトが展示される。


これが、It’s a Sony展の舞台装置だった。


立派な舞台装置だったが、しかし、外界と遮断された内部空間だからか、

都市公園のような設えには、かえって息の詰まる閉塞感を覚えた。ソニー

は、このビルの最後の演出に少々張り切りすぎた。手を加え過ぎた。



さよならソニービル_f0091854_13074949.jpg

最後は何も加えず、むしろ後補を剥ぎ取り、竣工当初の姿、裸に戻すこと

だけでよかった。数寄屋橋交差点上空、「外の景色」を眺めながら、

ぐるソニービルを登りたかった。そして、「花びら」が螺旋状に巻き上が

る様子を地上から覗いてみたかった。


ソニービルのコンセプトは、晴海通りの人の流れを建物内部に取り込み、

立体プロムナード(散策路)を作ることだった。つまり、都市の中で「空中

散歩」を楽しむこと。


ところで、「天空散歩」を楽しむためには「外の景色」を見せることが必須

であり、だから当然のように建物外皮は全面ガラス張り。しかし、全面ガラ

ス張りでは商品の日焼けが懸念され、また、壁量が少ないことは商品陳列に

不利とされた筈。が、この問題は「縦ルーバー」と「可動パネル」 により

解決された。つまり、ガラス外側に「縦ルーバー」を日除けとし、ガラス内

側に仕込んだ「可動パネル」により壁量を増やし、商品陳列の便宜を図るこ

とにした。設計した芦原義郎さんも発注した盛田昭夫さんも、当時共に40代。

2人は、きっと喜々としながら問題解決に取り組んだ。


この内外2つの仕掛けがあったからこそ全面ガラス張りが可能となり、「天空

散歩」という前代未聞の企みが現実的なものになった、と考えたい。だから

こそ、最後はその透明で瑞々しかった1966年のソニービルを見届けたかった。


1)以前からこの状態だったのか、

    今回のIt’s a Sony展の為にこうしたのかは不明。







by motoki8787 | 2017-04-01 13:03 | 建物雑記 | Comments(0)


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